はじめに:2025年度から再び「定員厳格化」される?という話題について
2025年度(2026年度入試)から、私立大学の「定員厳格化」、すなわち「定員管理」が再び厳しくなるという報道や噂が受験生・保護者の間で広がっています。
「また合格者が減るのか?」「一般入試が難化する?」と不安の声もありますが、本当にそうでしょうか。
今回は、「定員厳格化」の制度の背景、現行制度との違い、そして受験生にとって実際にどう影響するのかを、検討します。
そもそも「定員管理」とは何か?
文部科学省は、私立大学に補助金(経常費補助金)を交付していますが、その条件として「定員の管理」が求められます。
これは、「大学は、入学定員に応じた教員数や施設を前提に運営している」ため、それを大きく超える学生を受け入れると、教育の質が損なわれるという考えに基づきます。
そのため、かつては以下のようなペナルティラインが存在していました。
年度 | 大学の規模 | 補助金カットの基準 |
---|---|---|
〜2015年 | 入学定員ベース | 小規模:1.30倍、大規模:1.20倍 |
2016年~ | 段階的に厳格化 | 大規模:1.10倍でカットへ |
2023年~ | 入学定員→収容定員に切替 | 現行基準 |
2025年~ | 最終段階(完全移行) | 大規模大学で1.10倍超NG |
過去の問題点:入学定員ベースの管理による不合理
入試現場で問題になっていたのは、「辞退者を見込んだ合格者数の調整」が非常に難しかったことです。
典型的なジレンマ:
- 多めに合格を出せば → 辞退が予想以上に少ないと、定員超過で補助金カット
- 少なめに合格を出せば → 辞退が多すぎると、定員割れで収入減
このため、大学は「少なめに合格を出して、辞退者数を見てから補欠合格を出す」というやり方を常用。その結果、第一志望で補欠合格した受験生が、すでに滑り止めに入学金を払ってしまっていたため、泣く泣く辞退するというケースが多発しました。
大学側も、途中退学者の分を翌年の入学生で補えないため、学年ごとの人数調整が難しく、運営に支障が出ていました。
現行制度のポイント:「収容定員」ベースの管理
こうした混乱を避けるため、2023年度からは「収容定員超過率」=全学年合計の在籍学生数 ÷ 全学年の定員数での管理に移行。
これにより、大学は2〜4年生の人数を踏まえて、1年生の募集数を柔軟に決定できるようになりました。
年度 | 管理基準 | 基準の意味 |
~2022年 | 入学定員超過率 | 新入生だけで判断。1年ごとの運用が難しい。 |
2023~25 | 収容定員超過率 | 全学年で判断。柔軟に運用しやすい。 |
2025年~ | 収容定員完全適用 | 最終段階。実際にはすでに大学は対応済み。 |
仮に:収容定員が8,000人の大学だったら?
現在の制度では、「収容定員8,000人以上の大学」は、以下のように在校生数が制限されます。
年度 | 補助金カットの基準 | 在校生が… |
2023年 | 1.30倍以上 | 10,401人以上 → NG |
2024年 | 1.20倍以上 | 9,601人以上 → NG |
2025年 | 1.10倍以上(完全適用) | 8,801人以上 → NG |
つまり、仮に収容定員8,000人の大学では、2025年度以降は「在校生が8,800人を超えるとアウト」。そのため、大学は上級生の在籍状況を見ながら、1年生の合格者数を柔軟に決められるようになったのです。
同じ「定員厳格化」でも中身はまったく違います
「2025年度から定員厳格化が復活する」といった表現を目にすることがありますが、
前回(〜2022年)と今回(2023年〜、完全適用は2025年)の“定員厳格化”は、仕組みがまったく違います。
つまり、こういうこと
名前は同じ「定員厳格化」でも、
前回は“縛りがきつくて混乱も多かった”、今回は“仕組みが合理化されて運用しやすい”という違いがあります。2025年度に何かが急に厳しくなるわけではなく、むしろ今の方が現実的で柔軟な制度になっています。
結局、難化するの?
一言で言えば、大学や地域によります。ただし、前回ほどの劇的な難化にはならないと見られます。
2016~2022年の「前回の定員厳格化」
- 新入生の数だけで管理されていたため、辞退数を読み違えると即アウト。
- 合格者を大きく絞るしかなく、倍率が急上昇。 → この時期は、明らかに「難化した」と言える。
- それ以前なら、MARCHや関関同立に合格することができた生徒が日東駒専や産近甲龍に入学することに。
2023~2025年の現行制度
- すでに大学側は現行制度に対応しており、2025年度は“完全実施”にすぎない。
- 一部の大学では慎重な運用が増える可能性はあるが、 → 全体としては「緩やかな引き締め」程度。
つまり、2026年度入試が一斉に難しくなる、というような話ではない、つまり前回の「定員厳格化」のような難化は考えられない、ということです。
制度を正しく理解すれば、必要以上に恐れる必要はありません。 むしろ「どの大学がどれだけ柔軟に対応できるか」を読み解き、志望校選びと併願戦略を適切に立てることが、合格への近道です。
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