公立高校の「単願制」見直しへ──「デジタル併願制」導入を検討

石破政権、公立高校入試に「デジタル併願制」導入を検討

石破首相は4月22日、公立高校入試における「単願制」の見直しを関係閣僚に指示しました。受験生が複数の公立高校を併願できる新制度「デジタル併願制」の導入を目指し、教育の公平性と選択肢の拡大を図ります。

目次

単願制からデジタル併願制へ

石破政権は、公立高校の入試制度について、大きな改革に乗り出す方針を明らかにしました。
これまで多くの都道府県で採用されてきた「単願制」──すなわち、公立高校は原則1校のみ受験可能という仕組み──を見直す動きが本格化します。

単願制とは?

単願制とは、公立高校の入試で、受験生が原則1校しか出願できない制度のことです。
「この学校に落ちたら、他に行けるところがない」というリスクを伴うため、受験生が本当に行きたい学校に挑戦しづらくなるという課題があります。

4月22日に開かれたデジタル行財政改革会議において、石破首相は関係省庁に対し、「デジタル併願制」の導入検討を進めるよう指示しました。

この制度では、受験生が複数の公立高校に志望順位をつけて出願し、共通試験や内申点の結果をもとに、合格基準を満たした学校の中から最上位の志望校に自動的に振り分けられる仕組みとなっています。
試験結果と志望順位をもとにシステムが合否判定を一元的に行うことにより、受験生にとっては複数校での試験が不要となり、学校側にとっても事務負担の軽減が期待されます。

デジタル併願制とは?

受験生が複数の公立高校に志望順位をつけて出願し、共通試験や内申点の結果をもとに、合格基準を満たした中から最も志望順位が高い高校に自動的に割り当てられる新しい入試制度の構想です。

試験結果と志望順位に応じて、システムが一元的に合否を判定するため、受験生・学校双方の負担軽減、公平性の向上が期待されています。

この制度改正の背景には、現行の単願制が抱える構造的な問題がありました。
現在、公立高校を志望する受験生の中には、「1校しか選べない」「不合格=進路喪失」というプレッシャーから、本来の学力よりも低い難易度の学校を選ばざるを得ないという実情があります。
特に、公立の進学校や伝統校を目指す受験生にとっては、挑戦そのものを諦めるケースも多く、制度の硬直性が進路選択の幅を狭めていたと指摘されています。

また、現在の日本では、高校授業料の実質無償化が進んでいます。2024年度から公立高校が、2025年度からは私立高校も無償化の対象となり、受験生の進学先の選択に新たな動きが出てきています。
特に施設や学習環境が整った私立高校への志願者の増加が予測されており、こうした中で公立高校の魅力を高め、選びやすくすることも、今回の制度見直しの重要な目的の一つです。

石破政権、公立高校入試に「デジタル併願制」導入を検討

(出典:読売新聞)

なお、「デジタル併願制」は、すでに他分野で活用実績のあるマッチングモデルを参考にして導入が検討されています。
具体的には、アメリカ・ニューヨーク市の高校入試制度や、日本国内で保育所の入園調整に用いられている仕組みがモデルケースとされており、これらと同様の考え方で、公立高校への進学先決定が最適化されることが期待されます。

ただし、高校入試制度は都道府県ごとに独自に運用されているため、政府が一律に変更を指示することはできません。
そのため、国としてはまず希望する自治体での試行導入を進めた上で、全国への普及を目指すという段階的なアプローチを取る方針です。

石破首相はこの点について、「メリットや現場の課題を考慮し、希望する自治体での事例創出の具体化を図ってほしい」と明言しており、文部科学省・デジタル庁を中心に制度設計が進められる見込みです。

デジタル併願制のメリット

現時点で想定される、デジタル併願制のメリットについてまとめました。

① 受験生の負担軽減

従来の単願制では、公立高校は1校しか受験できず、滑り止めとして私立高校を併願する必要がありました。その結果、日程調整・対策の切り替え・受験費用の負担などが生じ、受験生にも保護者にも大きな負担となっていました。

デジタル併願制が導入されれば、一度の共通試験と内申点のデータで複数校に同時出願が可能になります。これにより、

  • 学校ごとに受験対策を切り替える必要がない
  • 家計への負担が軽減される

といったメリットが生まれ、心理的・経済的な余裕をもって受験に臨むことができます

② 実力相応の高校に挑戦しやすくなる

単願制のもとでは、「落ちたら進路がなくなる」という不安から、本来より低いランクの高校を選ばざるを得ないケースが多くありました。

デジタル併願制では、志望校を順位付きで複数登録できるため、

  • 「本命+安全圏」を併願できる
  • 難関校へのチャレンジがしやすくなる

結果として、自分の実力に見合った進学先を目指しやすくなります。進路の選択肢が広がることで、将来の可能性も広がります。

③ 大人の事情が優先される進路指導からの解放

現行の単願制では、進路決定に「大人の事情」が影響することがあります
たとえば、

  • 学校は不合格リスクを避け、安全な進路を勧める
  • 塾は合格実績を優先し、過度にレベルの高い学校を勧める

といった事例です。

デジタル併願制では、複数の志望校を出願し、成績と内申点に基づいて自動的に最上位の合格校が決定されます。
これにより、進路の決定において、学校や塾の意向に頼らず、自分の意思で選べる環境が整います

おわりにー進路選択のあり方が変わるかもしれないー

今回、石破政権が打ち出した「デジタル併願制」は、公立高校入試のあり方を大きく変える可能性を秘めた制度です。
これまでの「単願制」では難しかった挑戦が可能になり、進路選択の幅も広がります。
また、塾や学校の意向に左右されがちだった進路決定において、本人の意思と実力に基づいた判断が尊重される仕組みへと変わっていくことが期待されています。

もちろん、制度の詳細設計や実際の運用においては、今後多くの課題も出てくるでしょう。
ですが、少なくともこの制度は、教育の公平性・選択肢の拡大・機会の平等という観点から、大きな一歩となるかもしれません。

今後、どの自治体が先行導入に手を挙げ、どのようなかたちで制度が育っていくのか。
引き続き、制度の動向を注視していく必要があります。

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